盛岡家庭裁判所 昭和44年(家)185号 審判 1969年4月08日
申立人 苗代○マサ(仮名)
主文
申立人の氏「苗代○」を「池内」に変更することを許可する。
理由
申立人は主文同旨の審判を求め、その実情は別紙記載のとおりである。
よつて審案するに、申立人に対する当家庭裁判所調査官の調査報告書ならびに関係戸籍謄本の記載によると、申立人が本件申立の実情として主張する事実はすべてこれを認めることができる。
しかして、以上の事実およびその他諸般の事情を総合すれば、戸籍法第一〇七条第一項所定の氏を変更するに必要ないわゆる「やむを得ない理由」があるものと認められるから、本件申立を相当として、これを認容することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 田辺康次)
別紙
申立の実情 申立人は昭和二二年九月七日池内正夫と婚姻(届出昭和二二年九月八日)し、夫の氏を称して来たが昭和四三年一一月一一日夫正夫と協議の上離婚し婚姻前の氏「苗代○」に復しました。
しかし申立人は既に二〇数年にわたつて「池内」の氏を称して来たので今この呼称を廃棄して旧氏「苗代○」を称することは、申立人の同一性を惑わし、社会生活上種々支障を来すことが明らかであります。
その具体的な実情の二、三を列挙しますと、
一、申立人は昭和二十三年四月一日から今日まで約二一年の長期間にわたり、岩手県立○○聾学校○○科の教員として数多くの卒業生を送り出しましたが、特殊学校の関係上教員と卒業生とのつながりが深く、卒業後も卒業生の就職、補導、生活上の問題などについていろいろ相談を受けるなど交渉が多く、このような生活面においても改氏によつて生ずる不便が思いやられます。
又、在校生に対しても旧氏「苗代○」を称えることは生徒に奇異の目で見られることになりますが、申立人としては教員の立場上離婚の事実を生徒に知られたくなく、その意味においても従前からの氏「池内」を使用してゆきたいと思います。
二、申立人の有する公的、私的な各種の免許証(教員免許証、○○師免許証、自動車免許証、○○科講師免許等)債権証書(預金通帳、定期預金、電話債権等)等の名義の表示変更に多大の困難が伴なうことが予想されます。
三、申立人は二人の子(長女弓子二〇歳大学三年、長男誠一五歳中学生今春高校進学予定、親権者は申立人)を養育監護していますが右子等も生来の氏「池内」を「苗代○」に変更することを望まず、現在父の戸籍にその儘在籍していますが親子が一諸に生活しながら氏の異なることは何かと都合が悪いので、右子等は申立人の本改氏の申立の許されますことを祈念しており、その許可が下りましたら直ちに申立人の戸籍に入籍する予定です。
そのほか申立人の氏「苗代○」は「ナシロ○○」と読みますが-一般の人達は「エナシロ○○」「ナエシロ○○」等と読み、正しい呼称で読む人はほとんどなく、日常生活上甚だしく支障を来します。
以上のような事情から申立人は前記離婚の届出後も勤務校内では勿論のこと近隣知人に対しても復氏前の氏「池内」を引続き使用して今日に至つていますがこの際正式に改氏の御許可を得て、誰にもはばかることなく二〇数年間申立人の社会生活に滲透している「池内」の氏を称して子等と共に明るく生きてゆきたいと思いますのでよろしく御許可の程お願い申します。